▷ 書評: 高橋葉介 『仮面少年』(1979年・朝日ソノラマ サンコミック)
独自の世界観を持つ異色の漫画家・高橋葉介が、デビュー誌である『マンガ少年』(朝日ソノラマ刊)に連載した初期短編を、「ヨウスケの奇妙な世界」の総タイトルでまとめた全4巻のうちの、今回はその第2集である。
ちなみに、各巻のタイトルは次のとおり。
第1集『腹話術』
第2集『仮面少年』(※ 本巻)
第3集『ライアー教授の午後』
第4集『宵闇通りのブン』

私はこれらの作品を、刊行時に近い時期に読んでおり、一昨年「初期の高橋葉介について論じておきたい」と思いついて、初版本のに入った順にレビューを書いてきた。
その順番だと、次のようになる。
本第2集に収録されている作品は、次のとおりである。
・ 我楽多街奇譚(全3話)
・ 江帆波博士の診察室
・ 触覚
・ 新しい人形
・ 惑星LOVEの崩壊
・ 仮面少年
・ ハイ、オカアサマ
・ 荒野
本書には「初出」の記載がないので確認は出来なかったが、作品ごとに故意に絵柄を変えている部分を踏まえた上で、それでも画風などから察するに、本集への収録順は初出順ではなく、明るい「我楽多街奇譚」を冒頭に置き、中盤はグロテスク系、終盤は古風な幻想小説系(あるいは、戦前の変格探偵小説風)の作品という感じの構成になっている。
私個人としては、最後のパターンが好きだ。
なお、最初にお断りしておくと、これまで3本のレビューで論じたことについては繰り返すことはしないので、ここでは比較的簡単な紹介で済ませている部分については、ご容赦願いたい。そして、できればこれまでの3本のレビューを参照していただけると幸いである。
私としては、4本のレビューで、私の「高橋葉介論」だと考えている。

○ ○ ○
「我楽多街奇譚(全3話)」は、第3集の「ライアー教授の午後」シリーズに近い感じの作品てある。
正確に言えば、「我楽多街奇譚」の第1話「頭に咲く花」のスクワーム教授のエピソードを発展させたのが「ライアー教授の午後」シリーズであり、それをさらに捻ったのが、第4集の「宵闇通りのブン」シリーズだと位置づけでも良いのではないだろうか。
しかしながら、この「我楽多街奇譚(全3話)」の場合は、いかにも高橋葉介らしいパターンを三つ並べて見せてはいるが、語り手の少年が共通するだけで、良くも悪くも、シリーズ(三部作)としてのまとまりを見せるには至っていない。

○
「江帆波博士の診察室」は、タイトルこそ江帆波博士なのだが、例によって、語り手の少年の方が目立っていて、江帆波博士の影は薄い。
内容的には、高橋葉介お得意のグロテスクユーモア作品である。

○
「触覚」は、創作同人誌の初オフ会を描いた作品。
その中でひとりだけ遅れてきたメンバーが、片目を包帯で覆っており、そんな自分自身をネタにした、一人称「私」による語りの新作小説のネタを、皆の前で披露するのだが、その話があまりにも真に迫っており…というお話。
「百物語」の最後のエピソードや「告白もの」のホラー作品には、わりとよくあるパターンではあるのだが、ここで描かれる「包帯に隠されていた素顔」というのは、本書の表題作である「仮面少年」がまさにそうであるように、高橋葉介が繰り返し語る「仮面と素顔」の弁証法的テーマであり、その点で興味ぶかい。

○
「新しい人形」は、グロテスク趣味の因果話であり、落とし話である。
オチはありがちもので、少し永井豪の名作短編「ススムちゃん大ショック」を思わせるが、「ヨウスケの世界」らしいまとまりにおいて、かえってギャップによる効果がなく、永井作品のインパクトにはかなり劣って、物足りない。
いかにも理に落ちているという感じの作品なのだが、しばしば理に落ちてしまうところが、高橋葉介の弱点ではあろう。

○
「惑星LOVEの崩壊」は、SFドタバタコメディで、暗い作品の反動として描かれたのであろう、躁病的なまでハッピーでほのぼのとした快作である。

○
「仮面少年」は、どこか「戦前の探偵小説」風だという印象が強かったのだが、あれこれ考えているうちに、私は夢野久作の中編「あやかしの鼓」を思い出した。
要は、これも因果話なのだが、扱われるのが「仮面」だというところが、いかにも高橋葉介らしい。
暗い作品と明るい作品を交互に描き続けた高橋葉介という作家は、「仮面と素顔」という、自身の二重性にかかわる意識が、きっと強かったに違いない。
しかしながらそれは、当人的の意識としては「暗い方が私の素顔で、明るい方はその反動による仮面だ」というほど、単純なものでもなかったように見受けられる。
作品においては、「仮面こそが本質」といったニュアンスが強く感じられ、それが意味するのは、「明るいのも暗いのも、どちらも仮面にすぎない」という感覚だ。

○
「ハイ、オカアサマ」も「変格探偵小説」的な作品だが、しかし本作の場合は、日本の探偵小説ではなく、E・A・ポーの「告げ口心臓」あたりの影響の色濃い作品と見るべきだろう。

○
「荒野」も、高橋葉介の好きな「不思議な夢」テーマの物語で、緑の土地をはるかに望む灼熱の荒野をゆく孤独な旅人の夢を、父息子で引き継ぐという、高橋葉介には珍しい、希望を語った寓話的な作品である。

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以上のようなわけで、今回はこれといって、あらためて論ずるべきところはなかった。
だが、ひとつ確実に言えることは、高橋葉介という漫画家は、わかりやすくH・P・ラヴクラフトの影響下にあるというだけではなく、ポーの怪奇小説や、かつては「奇妙な味」の作品と言われた、ジョン・コリア、サキ、ロアルド・ダール、ロバート・ブロック、リチャード・マシスンといった作家から強い影響を受けているだろうということだ。
もう少しわかりやすく言うと、米国のTVドラマ『ミステリー・ゾーン』(『トワイライト・ゾーン』)系の作家であり、今の日本だと「世にも奇妙な物語」シリーズの作品にあたる作風の作家からの影響が大きい。
だからこそ、日本の戦前の「変格探偵小説」に似ているという印象を与えもするのだろう。
(2026年8月20日)
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